歌のワークショップ第2回目は、2013年お正月の福島、あんざい果樹園にて始まりました。前回「スキー」を初作曲したそういちろうくん6歳のおじいちゃんとおばあちゃんが住む果樹園です。移住先の北海道から、そういちろうくんの一家も帰省して、家族と親しいお友達が集う和やかな雰囲気の中、ある一人の物静かな男性から強い響きを感じ、「よろしければ作曲してみませんか?」と提案しました。
その方は、オッチさん45歳。震災後に奥様を亡くされ、2人のお子さんを男手一つで育てるお父さんでした。2歳のテルマ君は、まだあどけない天使のようです。お兄さんのテンマ君は7歳とは思えないほど語彙が多く、頭の回転が速いのですが、なにか重たいものを一心に抱え込んでいるような雰囲気があり、その姿を優しく見守るオッチさんの姿につよく引きつけられました。
最初は難しいかなと思っていたのですが、うたづくりについて説明すると、快く了承して下さり、オッチさん自身の物語を、聴かせて下さいました。
オッチさんが淡々と話して下さったのに、僕は、情けないことに、この震災前後の話を聞いた時点で言葉に詰まってしまい「どんな歌を作りますか?」と聞けなくなってしまいました。
でも、少しずつ会話を重ねるうちに、モトカさんがケーキ作りの名人であったという話が飛び出します。モトカさんのケーキが大好物だったオッチさんや友人たち。それにも増してモトカさんのケーキを愛していたのが、子供たち。テンマ君とテルマ君です。
「モトカが亡くなって以来、テンマはケーキを食べなくなってしまったんです」とオッチさん。
「お母さんのケーキは食ってたんだけど」
それ以外は食べない?
「食べたがらない」
お母さんのケーキ…
うーん どんな歌が良いだろう…
お母さんのケーキ…
それだけで大きな曲になりそうだけど、でもテンちゃんの気持ちだから、うまく代弁できないですよね。
「うーん、そうですね」
何を考えてるかはテンちゃんしかわからない。
お父さんはケーキを作ってあげたりはしないんですか?
「昔はやったんですよ。テンマもなにか作ったりするのが好きだから、一緒にも作ったし。
でも今ちょっと、そういう余裕がなくて、なかなか出来ないのが、残念といえば、残念で」
なるほど
では例えば、歌の上だけでもケーキを作ってみるというのはどうでしょう?
今回は、もしかしたら、歌を作れないかもしれないと、思っていました。音楽の出番では、無いのかもと。でも、会話の中からふっと現れた、微かな契機。
こうして、オッチさんの、初めてのうたづくりは、モトカさんの、魔法のケーキを、歌の上に再現して行く試みになりました。
キッチンに立つモトカさんのケーキ作りを思い出しながら、選ばれてゆく言葉。それに七尾が最低限の補佐を加えて、歌詞にしていきました。メロディも、オッチさんに、料理中のモトカさんをイメージした鼻歌を2小節分作って頂いて、それを元に和音をつけて展開させます。スポンジが出来上がり果物をはさむシーンでは「ケーキ作りの見せ場なので軽快な感じの音にしたいなあ」とオッチさんものってきて、だんだん僕たちは、組んだばかりのバンドのように、ちいさな熱を帯びていきました。目の前の歌にどんどん命が吹き込まれ、とうとう曲が完成しました。
「絵が浮かぶ」とオッチさん。
「そのまんまだ」「モトカちゃんが見える」とお友達の皆さん。
そういちろうくん6歳の時とはちがい、歌唱は、七尾が担当することになりました。
オッチさん
テンマ君
テルマ君
そしてモトカさん
この歌は僕にとって大き過ぎて、大き過ぎて、
まだいまも咀嚼しきれていないかもしれません。
長い時間お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
またぜひ一緒に歌えたら嬉しいです。
この歌をよく歌い込んでおきますので。
そして機会があれば、新しい歌も作りましょう。
あのときテンマ君がつくった俳句を元にするのも良いですね。
「夏の空 いっぱいのくも やまのうえ」
かけがえのない歌を、ありがとうございました。